再発

 肉腫が再発してしまった。
原発部位の手術から2年半経ち、もう大丈夫なんじゃないかと、新しい生活に踏み出そうとしていた矢先だったのに。

 地元の病院では化学療法エンドレスでやります、と諦めたような回答しか出てこない。
 思いきって肉腫界で有名な病院へセカンドオピニオンをお願いする。
すぐに方針を立てて下さり、この手術はこちら、この治療はあちら、と病院や先生まであれよあれよと決まり、頼もしい限り。
 治療の旅が決定。もっと早くこの先生にお願いしておくんだった…後悔もしたが、もう前に進むしかない。前向きに頑張ることにする。

コロナ

 抗がん剤による治療の副作用のひとつに、免疫抑制というものがある。
 これは白血球が減って抵抗力が弱ってしまうので、色々な感染症が流行るこの時期、特に気をつけないといけない。

 それなのに、新型コロナウィルスというものが登場してしまった。基礎疾患のある人には命の危険さえあるそうだ。

 もう、どこへも行けやしない。
家から一歩も出ない日もあるくらいだ。

 このウィルス、日本でも中国からすぐに飛び火し、早くから多くの感染者が出ているのに、感染者を隔離するなど、その場しのぎの対処には躍起になって、全体では何の対策もとられていない。

 毎日、何人感染したとか、中国は医療体制が整っていないとか、マスクが足りないとか、アメリカがチャーター便を出すとか、ヨーロッパでアジア人が差別されたとか、日本の対応がいいとか悪いとか、そんなことばかりが報道される。

 そして、日本はどんな対策をとるのか、と思っていたら、今日、ただ個々の国民が気をつけて生活し、国は特に対策しないということが決まったようだ…

 何のために会議を開いていたのか。

 そもそも、なぜ、他国がどうしているとか、国民からの批判とか、関係性ばかりがクローズアップされるのか。

 今、政府のするべきことは、国民を守ること一択ではないのか。

 明らかに緊急性のある非常事態だと思うが、国民からの批判があろうと、他国の意見と相容れないことがあろうと、多少強硬な対策を取る必要があるのでは?

 日本での流行を防ぐという対策をなぜ、政府はしない?

ガンで儲ける人

 ガン患者を食い物にして大金を巻き上げる商法があることをガンになって初めて知った。

 新聞や雑誌、ネットの広告で高額な健康食品や療法をよく目にする。
 また、病院での標準治療を否定し、「新しい」「画期的」な治療方法を提唱する医者もいる。
 こういったものが、テレビ番組で特集を組まれていることさえある。
 これらは殆どが医学的な根拠がないそうだ。それじゃ迷信と代わりない。

 それなのに多くの人がこういった迷信に大金をつぎこんでしまって、肝心の治療にかけるお金を使い果たしてしまうこともあるそうだ。

 なぜ命に関わることなのに、間違った治療に大金をつぎ込んでしまうのか?

 正規の治療ではなく、怪しい業者や偽医者を信じこんでしまうの
は病気や治療についての情報不足があるのではないだろうか。

 診察の後の病気や治療法の説明は到底十分ではなく、私も病気についてはネットで検索せざるおえなかった。

 焦りと不安のなか、正常な判断力を失ってしまい、「絶対直る」などといった、扇情的な謳い文句にすがってしまうのではないだろうか。
 
 さらに、この情報不足から、病院は何か隠しているのでは?不信感が、生まれているのではないか。

 人は信じたいものを信じる。

 今起問題になっているコロナウイルスについても、ネット上では思い込みに基づく、感情的で荒唐無稽な書き込みが花盛りである。

 医療機関には、私たちに情報が確実に手には入るように、もっと広報、啓発活動に力をいれてもらいたい。

 詐欺まがいの広告を取り締まる必要もあるだろうし、各メディアも、エヴィデンスの不確かな情報を垂れ流さないよう、ガイドラインを定める必要が、あるのではないか。

病院界デビュー

 ガンは死に至ることもある病気で、肉腫はその中でも研究が遅れているということで、落ち込んでもいたが、入院すると、初めての経験が多く、興味深かった。

 入院する前は、みんな健康なのに一人病気になってしまった、社会からアウトしてしまった、と思っていた。
 しかし、入院したら、大勢の入院患者がいて、生活があり、病院職員と共に作り出している社会があることがわかった。

 病院社会の一年生だ。

 病院界初心者の私は入院して、看護師が何度も来てくれることに感心した。
 朝昼晩の検温、血圧測定だけでなく、夜勤や日勤に担当が替わった折にも挨拶に来てくれる。
 今までの生活の中で、こんなに人から優しく接して貰えるばかりのことがあっただろうか。

 患者は孤独感を持つことなく、色々な人から支えられていると感じることができる。
 こういう精神的なサポートが早期回復に繋がるのだろう。

 しかし、一年生だけあって、病院の作法がよく分からない。
 他の患者より一人だけ元気な感じになってしまう。

 最初、医者や看護師に普通の調子で受け答えしていたのだが、妙にはりきっているような感じになって、なんだか浮いているような気がしてきた。

 他の人の様子を見て、もう少し力ない感じに振る舞った方が一般的なのかと思い、小さな声で受け答えすることにした。

 ところが、ベッドで油断している時に声をかけられると、つい「はいっ」と飛び起きようとしてしまう。
 
 また、手術後に歩かなければと、庭の方まで行ってしまったり、食事が病室に配膳されるのに、時間になると食堂まで行ってしまったりもした。
 
 そして、夜は10 時消灯なのだが、全然眠れない。
 金曜ロードショーを最後まで見たかったのに。
 暇潰しに隠れてスマホばかり見ていると、老眼が一気に進んでしまった。
 
 職員や他の患者から白い目で見られていないか、心配だ。
 しかしながら、病院界のベテランになってまったく卒のないそつのない振る舞いができるようになりたいかというと…

肉腫???

 子宮肉腫ですと言われても、そんなの聞いたこともなく、どこがどうなる病気かも分からない。
 
 肉腫とはサルコーマと呼ばれる希少ガンらしい。
 肉腫というガンが、子宮の平滑筋にできたから子宮平滑筋肉腫。

 治療方法は他のガンと同じように患部を手術で取り除いて、抗がん剤治療。肺などに転移の可能性がある。

 肉腫は珍しい病気で、掛かる人があまりいないため、治療法の研究があまり進んでいない。
 そのため、多くのガンが、治るようになったと言われる現代において、なお予後不良のまま。

 ネットでも具体的な事例とか、知りたいことはほとんど載っていない。こんなことあるだろうか。

 病気初心者の私は、世の中の病気は大体研究されていて、よっぽど発見が遅れたとか、体力が弱っているときに病気になったとかじゃなければ、大体は治るのかと思っていた。  

 掛かる人が少なくて、あまり知られていないと、研究してもらえないとは思ってもみなかった。

 この歳になってもこんな新しい気づき、新しい体験というものに遭遇してしまった。

 肉腫 サルコーマが有名になることを切に願うばかり。

 

皮肉屋もガンになる

 念のためとMRIを撮った地域の病院から、早めにもう一度来てください、とのこと。なんなら今日の夕方でもいいので…と、急いでいる風。

 不安になりながら受診すると、悪性腫瘍の疑いがあり、全摘出手術になると思うので、大きな病院に行くようにと言われた。

 それまで、具合が悪かったのに、癌を疑ったことは一度もなく、こんなことを言われるとは思ってもいなかった。

 病名を聞くと、子宮肉腫または平滑筋肉腫とのこと。
なんだそれは。聞いたこともない。

 どうやらサルコーマという珍しい癌の一種らしい。

 自分がソンナモノになるなんて思ってもみなかった。
今まで病気ひとつしなかったのに。検診受けたばっかりなのに。

 ぼーっとして車を危険運転しながら家に帰った。

 家族にはとても言えなかった。